5月7日(月)
夢をつかもう
「辿りきていまだ麓」
昭和32年に将棋の名人となった、升田幸三九段の言葉です。
大山名人との死闘7番勝負を制した直後なのに、その謙虚さには驚きます。
実は、「新手一生」を生涯の目標に掲げた彼にとって、名人位は通過点でした。彼にとっての目指す夢とは、将棋の勝ち負けやタイトル取得ではなく、新しい手の創造でした。その言葉どおり、名人となってから、いくつもの新定跡や新手を編み出して、将棋の革新に寄与しました。
このような逸話を思い出したのには、訳があります。連休の終盤に、一世を風靡した元プロレスラーのブル中野さんのお話を聴く機会があったからです。彼女は多感な少女時代、リング上の華やかなスターレスラーに憧れて、練習生として入門しました。3回のオーディションを経てプロの仲間入りをし、天性の身体能力と強靭な精神力を発揮し、やがてメインイベンターにのし上がりました。そして、ダンプ松本の呼びかけに応え悪役に転向し、ついに女子プロレスの大スターとなりました。
さらにはアメリカ本土に渡り、宿敵メデューサとのタイトルマッチでは全米の注目を集めた戦いを繰り広げました。そのブル中野さんが、女子プロ時代を振り返って、最も素晴らしかった時期はいつかと回想すると、
「それは、練習生としてプロを目指した時期です。ただひたすらプロになりたくて練習しました。リングに上がりたくて仲間と競いました。夢だけに向かって、毎日努力していました。その頃の私には、夢しかなかったのです」
キラキラと輝く原石の時が原点で、それを忘れないことが大切だという教えでした。いつも夢をもち、謙虚に原点を忘れずにいたいと思います。
文 今泉文彦