優しい目をした牛たちがのんびりと過ごす牛舎。「この子は赤毛だからレッド。生まれたばかりのあの子はミランダ」。教えてもらった名前を呼ぶと,人懐こく近づいて来る牛たちの温かな体温を感じることができるのは,石岡市大砂にある石岡鈴木牧場。牛の健康を第一に,50頭ほどを育てています。およそ10年前に製造を始めたヨーグルトやチーズは地元を中心に販売され,口コミで話題を呼び,大使館の晩餐会でも使われるほど。
「搾乳している牛は28頭。これは県内でみれば半分以下の規模。でも拡大することは考えていないんです。大きくなれば,両親が大切にしてきた『健康に飼う』ことを続けていくのが難しくなるから」と話す鈴木績さんは,2年前まで市外の大手建設機械メーカーの技術者でした。現在は妻の美登里さんと,両親の築いてきた牧場を継承すべく経営に携わります。
一頭あたりの搾乳量を増やすことが重視される時代に,父の昇さんは「病気のない健康な牛を育てる」ことを一番に考え,飼料畑の土づくりに力を注ぎました。その結果,牧場特有の臭いがしなくなったことには,訪れた誰もが驚きます。
「なくしてほしくない」の言葉で
機械が好きで技術畑一本だった績さん。
「正直,継ぐ気はなかったんです。でも結婚後,週末に乳製品の試食会の手伝いに行くようになると,そこで出会うお客さんから『ここのヨーグルトがなくなってしまったら,私たちどうしたらいいの』と声を掛けられて。こんなにも求められる仕事をしていたんだと気づかせてもらいましたね」
近隣の畑を借り受けてからは飼料の自給率は2割ほどあがりました。一方,牛に食べさせるものであっても安心・安全なものを作るために,農薬を使わずに除草を行うなど手間は惜しみません。
愛知県出身の美登里さんは,3年前,結婚を機に石岡市に移住。以前は,北海道の酪農機械メーカーの営業として全国の牧場を飛び回る日々。現在はチーズの製造を担当します。
「石岡に来て野菜ってこんなにおいしかったのかと気づきました。食べたもので体が出来ているのは牛も人間も一緒。お義父さんたちが一番大切にしてきた『土づくり』がすべての始まりだと思うんです」
今後は食育を切り口に,土づくりの意味を五感で体験できる場をつくっていきたいと話すお二人。新たなチャレンジが始まります。
※この記事は,広報いしおか2017年10月1日号(No.288)の巻末連載「石岡で,はたらくひと Vol.5」を転載したものです。