6月4日(水)
麦秋の来訪者
鮮やかな緑の中に色づき始めた麦畑が、改めて夏の到来を知らせてくれます。
刈り入れ前の黄金色の麦の穂は、まるで秋が来たようです。この時期を麦秋と表現した先人は、なんと素晴らしい感性なのでしょう。
昨日から市議会の定例会が始まっていて、今日はそれに向けての打ち合わせが数件予定されています。
このような日程の中で、あるご夫妻の面会がありました。
それは市内に住む大森正さんご夫妻で、このほど紺綬褒章を授与されたことの報告でした。
この褒章は、公益のために私財を寄附された方に贈られるもので、大森さんは昨年3月、石岡市に5千万円を寄附しています。
「紺綬褒章、本当におめでとうございました」私の言葉にご夫妻は小さくうなずきました。
▲会話から誠実な人柄がにじみ出る大森さん夫妻
「それにしても、生涯を通じて貯められたお金を、市民福祉の向上にと寄附されたこと、その貴い志に感謝いたします」私は心の底からお礼を述べました。
大森さんは、昭和5年に旧林村(石岡市)に生まれ、終戦の年の3月に林国民学校高等科を卒業しています。
そのことから、この浄財がどれほど血のにじむような苦労の末に寄せられたものであるかを感じました。
終戦という激動の中で独り立ちした少年が、どんな思いで日々を過ごしたのでしょうか。
「それは、大変な毎日でしたよ。勤めるあてもなく、日雇いで1日170円という仕事もやりました」明日への希望が容易に見いだせない時期でした。
やがて、大森さんは茨城町に米穀商を開業します。その10年後、奥様と知り合い結婚します。その頃から商売は上向きになり、東京方面への出荷などが軌道に乗ってきました。
「やはり、商売は信頼第一ですよ。信用を損ねないよう、お客様第一の仕事を心がけました」誠実で実直な人柄が言葉からにじみ出ています。
80歳を超えて親兄弟がすべて先立ち、二人暮らしをする中で、大森さんは資産を通じての社会貢献を決意しました。
寄附金は、一部を市の奨学金基金に積み増しし、残りは一人親や身体障害者の家庭で子どもが小学校に入る際の入学祝金に
用いています。
「新入学のご家庭は、喜ばれていますよ」担当の言葉に、ご夫妻は笑顔で応えました。
長い人生行路を共に歩んできた二人の横顔は、充実感に満ちていました。
文・写真 今泉 文彦