8月31日(日)
こがね色の朝
早朝4時半、私はまだ暗い空を見上げ、草むらにすだく虫の音に秋を感じながら自宅の庭に立っていました。
うっすらと山並みが、見えるようになってきました。その稜線を目でたどりながら、先週に74歳で急死した中学校時代の恩師を思い出しました。
恩師は英語と美術を教える担任で、クラスの仲間たちは槙(まき)ちゃん先生と呼んで慕っていました。チャーミングな笑顔で、溌剌(はつらつ)としていて、それでいて怒ると怖い一面もありました。
「ふざけた人は、ここに座りなさい!」そういって教壇の前の床に生徒たちを一列に並ばせました。
私も含めて10人ほどだったでしょうか、先生はその前に仁王立ちになり、いきなり「喝」が入りました。
「さあ、自分の席に戻って!授業再開だ!」
新学期が始まったばかりで、浮かれた空気は吹き飛びました。
「家内は、貴方が市長になったときどれほど喜んだことか。新聞に市長さんの名前と写真が載るたびに切り抜いていたんです」と元教育長だったご主人が祭壇の前で語りました。
恩師を回想しているうちに、出発の時間が迫ってきました。
今日は、筑波連山天空トレイルランが5時にスタートする記念すべき日なのです。このレースは、筑波山系の山々の尾根道と里山のコース70キロメートルを走破するスーパー山岳マラソンです。
地元をはじめ、農協や関連団体、金融機関、市役所などから、総勢300 人近いボランティアスタッフが協力体制を敷き、500 名余の参加者と関係者がスタート会場の八郷総合支所に集っています。
(写真;スタート地点でボランティアスタッフと記念撮影)
最初はロングの70キロメートル、5分後にミドルの48キロメートル、その5分後にショートの25キロメートルで、男女共のスタートです。
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午後になって、ゴールの連絡が入ってきました。ショートの1位は1時間51分、ミドルは4時間27分、ロングは6時間21分という驚異的なレコードでした。
夕方になって、全員が無事ゴールしたと連絡が入り、私はほっと胸をなで下ろしました。 自宅の机に向かうと、少し前に届いた先生からの手紙に気づき、改めて読み返しました。
「あなたの公約にあった、まず市民の声に耳を傾け、その声を吸い上げ市政に生かす、ぜひやってもらいたいと思っています」
銀座・鳩居堂の便せんに書かれた先生の手紙は、昔と変わらない溌剌とした文字で綴られており、心が新たになりました。
文・写真 今泉 文彦