7月8日(月)
万年筆の書き心地
鳥取駅前の目抜き通りを歩いている時、洒落たオーダー万年筆店が目に入りました。
店内に入るとショーケースに重厚な万年筆がずらりと並んでいます。一本一本が存在感を放ち、色や形が個性的で、宝石のような輝きを放つ逸品もありました。
「どうです、試しに書き心地を確かめてみては」と店主が差し出したのは、トレイに並ぶ中でも一番に高級そうな万年筆でした。手にとってみると、しっくりと指になじみ、ペン先が軽快に走ります。「これなら長時間使っていても疲れを感じないし、喋るようにペンが動いていきますね。この万年筆のお値段は?」恐る恐る聞くと、「38万円で、今予約するとお届けは2年後です」
この店のオーダー万年筆は世界的な人気製品のようです。
店内に目をやると、大きな赤いカレンダーが貼られ、よく見ると因幡国の麒麟獅子が描かれています。この地独特の民俗芸能で、世界遺産の認定取得を待ちわびているところでした。
「25年前に鳥取市を訪れた際に麒麟獅子の研究発表を聞きました」当時の様子が鮮明によみがえってきました。
「奇遇ですね。その発表の場にいたのが私です。まちの固有のものを探して、地域活性化のシンボルにしようと模索していたのです」と店主。
25年もの間、麒麟獅子一筋にまちおこしを貫いてきたことに深い感動を覚えると共に、不思議な縁を感じました。
「もっとお手軽な万年筆はありませんか」モジモジと店主に尋ねると、取り出したのは、ドイツ製のペリカンの万年筆です。キャップを回し、試してみると、文字が上手くなったような書き心地です。
しばらく忘れていた感触を実感した瞬間、値段も聞かずにペンをレジに差し出している自分がいました。
文・今泉文彦